「手作りスピーカー しょの3」
いよいよシリーズ第3弾『しょの3』です。
いよいよって言っても、これまた期待されていないですよねー・・。
今回はスピーカーの手作り「偏」の3回目。
前回までに、
①D-101S(スーパースワン)です。
②D-37(16cm、FE168SS用 CW型)
③D-102(10cm、FE108Σ用 ブックシェルフ型)と
きましたが、
今回は④D-99(エイトマン・・8cm、FE88ES用 ブックシェルフ型)
の話を書きます。
頭のDは故長岡先生がバックロードホーンにつけた命名の・・確か「ダイナロード」だった?・・・の略の「D」だと思います。
先生が、かつて、どこかのスピーカーのメーカーさんの依頼で、バックロードのスピーカーシステムのネーミングを頼まれて考えた商標・・だったように?思います。(確か何かの理由で使われなかった名称で、それが権利を取れたかどうか?など詳細はウル覚えですが・・・)
このダイナロード・・・略してD、・・先生設計のバックロード方式のスピーカーの型番の頭・・に使われています。
では・・・。
口径8cmのD-99です。
ブックシェルフ型バックロードホーンD-99(エイトマン)。
これも長岡先生がご逝去後に、追悼特集の雑誌、不思議の国の長岡鉄男①・・で製作記事を見て、興味を持ちまして、制作する事にしたスピーカーです。
先生の図面の通りに作り、アレンジは開口部の奥の三角の材料と、その下の部分に板の補強用でベニヤを追加したのみ・・・が変更点です。
もともと、この手の形のスピーカー制作では、D-102の制作経験もありましたが、ホーン開口が前面で、低音を前に出すタイプのブックシェルフ形のバックロードホーンは好きでした。
ユニットも小さな口径で25khz以上まで伸びていると言われる、このFE-88ESと言うユニットを使用します。
これはツイーターも不要なので、相当音も良さそうに仕上がると感じられ、かなり気になりました。
このユニットの購入は、たまたま秋葉原のコイズミ無線さんにフラッと立ち寄った時に、偶然見つけました。で、制作とか設計の目的があったわけでは無いのですが、「限定ユニットは買っておくべき」・・と言う発想で、小型ゆえお値段もそこそこでしたし、お小遣いで「買い置き」してありました・・。
長岡先生は、かねてから雑誌の記事で、D-102は珍しいブックシェルフ型のバックロードホーンで、大変完成度が高いので、なかなかその後の発展が出来ない・・・と言うような主旨のことを言っておられました。
ですので、原型のD-102は小生が10年ほど前に作った時点より、さらに相当以前の設計で、古い作品だと思いますが、その後の改善版などの発表が無いので、皆さん新しいユニットを使用するケースでも、これを土台にして作っていたようでした。
そういう状況の中、今回は新しいFE88ESユニットの発売を期に、雑誌社などから、このユニットを使った新機種の設計を多数依頼されて、やることにした・・・的な経緯が書いてありました。
小生にとっては長岡先生の久しぶりのブックシェルフ型バックロードです。なんと嬉しいことか!!ですねえ。
小生はD-102の時に「この設計は天才的だなあ」と言う感覚があり、是非また新しいユニットで・・この類で、新しい違うのを作りたい!!と思っていたので、限定発売のFE88ESという口径わずか8cmでも大変強力なバックロードホーン用のユニットを使うこのD-99は、『作ってみたい工作』・・の最右翼になりました。
先生はこのスピーカーD-99を発表した製作記事中で、「超ハイCP機」「誰もが納得の高音質」と言ってらっしゃいましたし、制作当日同席した一般読者参加の試聴会で、これが欲しい・・持って帰りたい・・と言う人が出てきて編集部が慌てた・・・というくだりもあって、なおの事、作りたいと思ったのでした。
{CPはコストパフォーマンスの事です。・・・価格対性能比・・ハイCPは価格が安くて性能が良いということです・・・。}
小生は図面上の素人判断からでも、このD-99を直感的に「良い」と感じていました。
と言うのは、つまらない経験からの自己流解釈なんですが、以前のD-102では開口部の高さが低く、潰れた横長の形の穴であり、それがこのスピーカーの低音が出にくい原因か・・とも素人的に考えた事があるのです。
先生ご自身も「本当は開口部をもっと大きくしたかったのだが・・・」的に、何かの原稿で書かれていましたし・・・。
で、その開口部の大型化という視点で、今回のD-99を見ますと、開口部は平たいどころか「縦長」で大きいのです。
小生は勝手に、今回は開口部の形や補強など、D-102で残った課題を解決しているのだな・・などと一人悦にいったものです。まるで、先生と会話をしている気分でした。
ということで、この小型で可愛いD-99の工作なのです。(今回からは、比較的最近の製作ですから、結構デジカメの写真もありますし・・・)
1.板材の手配
板は15mm厚のシナベニヤをドイトさんで購入し、カットを依頼しました。
もちろん直線カットのみで、丸いスピーカーの穴あけや、四角い開口部の穴は自分のドリルとジグソーで開けます。
2.パーツ確認と下準備
パーツをそろえて過不足を確認し、組み立ての開始です。
まずは、寸法の確認です。
音道構成パーツは前面側はすべて幅70mmで、後ろ側は100mmです。
平らな板の上ですべてのパーツを背比べするようにきっちりくっつけて揃えて見ると、狂いがある物が出っ張ったりします。この段階で出っ張るパーツにカンナを掛けたり、ヤスリで削ったりして直します。
これは後々、組み立てが楽になるコツみたいなものです。
事前の準備としては、さらにフロントバッフル板に、裏側からスピーカーの取り付け用の爪つきナットを打ち込んで、つけておきます。
この程度のサイズのユニットでは取り付けるネジは4mmです。従って爪つきナットも4mmです。
そうしますと、この爪つきナットの外形が5.5mmくらいですから、穴は5.5mmの穴となります。穴の位置は図面的にも割り出しますが、早いのは現物での確認です。
穴の中心を出すためには、穴を開けて切り離した丸い不要な部分を中心に戻し入れて、中心からネジまでの距離をコンパスで墨付けしてから、丸い部分を外し、穴にユニットを置いて、ユニットの取り付け用の穴にコンパスの鉛筆の線が見える範囲で、キリでチョットだけ穴を開けると安心です。
・・・この方法ですとユニットがバッフルの穴に対して、左右などに偏ってしまいませんし、寸法のミスも現物で確認可能で安全です・・。
3.組み立て・・音道
長岡氏の図面のパーツの番号で、前後を分ける①のパーツが組み立ての要です。このパーツの上に音道を構成をするパーツ②~⑨を並べて、こんな感じに取り付けるのだなと、まずは、あたりをつけます。
①の板には図面どおりの寸法で、取り付けるパーツの線を、鉛筆でライン書きして入れておきます。
そうしましたら、いよいよパーツに木工ボンドを付けて、板に描いた線に合わせて貼り付けます。
体重をかけ3分~くらい押し付けていますと、速乾の木工ボンドも落ち着きまして、一瞬板を裏返す間くらいは剥がれず、ズレず、にいてくれます。
このズレない程度の状態が重要です。
そこで裏返して、裏からドリルでネジ用の下穴を開け、ネジの頭が出っ張らずに入り込むようなザクリもやってから、コースレッドと言う細身の木ネジを捻じ込みます。
ネジの間隔は適当です・・。
狭くて5cmから、広くて10cmくらいでネジを打ちます。
小生の場合、組み立てには釘は使いません。
コースレッド(木ネジ)は下穴など面倒ですが、強力に締め付けられますから、釘より強度抜群になるのです。
もっとも面倒がって直径2.5mmの下穴をきちんと開けませんと、板がネジに押し広げられて割れる事がありますから、工作は楽ではありませんが・・・。
ドリル径は2.5mmを使い、ネジ頭が出っ張らないように円錐型の穴を開ける・・・ザクリは・・・それに向く専用のキリを使います。
コースレッドは32mmを主に使っています。
写真をご参照くださいませ。
このやり方で、作業効率アップのために、小生は組み立て時はドライバー・ドリルを3台同時に使います。
下穴あけ用、ザクリ用、とネジを締めるドライバーの3台です。
3台使うと刃やドライバーを、その都度付け替える時間が短縮でき、早いです。
最近はAC(家庭電源)の電動ドライバー・ドリルもオークションで1500円くらいですし、充電型のものでも3000円くらいで結構良いのがあるので、3台使っています。
このボンド、裏返しネジ止め・・作業の繰り返しで、前面側の音道は完成します。(写真)
裏面側も基本的に同様ですが、板の貼りあわせがあります。
板の貼りあわせは、ズレたら困るので、まずボンドを付けずに板同士をきっちり合わせ、下穴をだけ穴あけします。ドリルの刃が板2枚を貫通しないように、ドリルからの刃の出方を30mm以下に調節します。
4箇所くらい穴あけしてからボンド付けし、貼りあわせ、5分くらいでボンドが落ち着いたら、ネジが貫通して飛び出ないようにやや短い25mmの長さのコースレッドで締め付けます。
こうして貼りあわせは「穴が先」「・・それからボンドで接着」「コースレッドを締める」とやると、うまく行きます。
もちろん穴あけした時の通りに貼り合わせませんと、穴がずれ意味がなくなります。
ボンド付けのとき、部品の裏返しをしないように上が分かるマークをしておきます。
裏面のパーツもこれで①に着けられ、音道の概要が完成します。
そうしましたら、後は組み立て順どおりに、その他のパーツを取り付けていきます。
4.組み立て・・・配線
前面のバッフル板と後面の板を取り付ける前に、スピーカーのコードを通し、端子を装着する準備をしませんと、後からでは取り付け不可能になりますので、段取りを忘れないように、あせらずじっくりやる必要があります。
コードの長さも重要なポイントです。十分な余裕を見て、後ろの端子の穴から出る部分が
30cm以上とたっぷりにしておきます。
前のバッフル板からも40cm以上の余裕を見ます。長い分には後で切れますから・・・。
特に前面はコードの長さに余裕があると、スピーカーユニットの取り付け、半田付けなどの時に、スピーカーユニットを箱(エンクロージャー)の上に乗せて作業が出来ます。
この余裕が45cmくらいなのです。
本体25cm、後ろ30cm、前45cmでで、トータル100cmです。意外に長いですね。余り過ぎたら、後で切ってください。(写真ではコードが短くて失敗し、後からやり直しています)
①に直径4mmくらいのコードの通る穴を2箇所あけ、スピーカーのコードのプラスとマイナスを通しエポキシ系ボンドで穴をふさぎます。
想定するコードの接着位置にマジックなどで印をしてからコードを板の厚み分の15mm程、引き出して、その出した部分の周囲全体にボンドを塗り、印までコードを戻すと、穴の中までボンドが行き渡ります。
コードを回してボンドを馴染ませるのも良いと思います
なぜエポキシボンドかと言いますと、穴の奥まで固めるためなのです。
溶剤系で乾燥させるタイプのボンドを使用すると、空気の入らない奥の方が固まらず液状のままになってしまうのです。
その点、エポキシ系のボンドはA・B、2液の反応で固まるタイプであり、空気・乾燥を必要としないので、穴の中の奥でもきちんと固まるのです。
配線後に後面の板をつけるとき、事前に端子用の穴・・大体10mmの穴を二つ・・開けておきます。そして後面の板にはコースレッドを締めるための穴を開ける位置に、鉛筆で線を入れておきます。
この状態で本体側に木工ボンド(速乾ではない普通の)をつけて、後面の板の端子の穴にコード2本を通し、先を軽く結んで抜けないようにし、接着します。
5.組み立て・・・後面とバッフル~開口部の三角材
後面の板がズレが無いように角を決め、コースレッドをまず四隅に打ちます。
ボンドが落ち着いてきたら、5cmおきくらいにドンドン下穴をあけザクリ、コースレッドを打ち込みます。
はみ出た木工ボンドは水溶性ですから、ぬれ雑巾でドンドンふき取っておきます。
オリジナルの図面では、開口部の後ろ半分の下側に板がありませんが、これは追加でベニヤ1枚を補強に加えるべきと思います。
断裁したときの余りのベニヤ板から切りだして、ボンドと裏からのコースレッドでしっかり固定し、その上に三角材をつけます。
三角材は開口部へ低音を押し出すために大変有効なようです。
小生は大きな柱の様な、一辺が8cmくらいの角材を手のこで(のこぎりで)斜めに裂いて使います。これは「のこぎり」の縦刃(たてば)で無いと切れませんので、両刃の「のこぎり」がぜひ必要です。
これを鋸で切るのはかなり難しいですがホームセンターなどではやってくれませんので、練習してこつを体得してやる以外無いようです。
音道の途中には高音吸収のフエルトを貼ったりという工程もあります。
そして、最後に前面バッフルの装着で、組み立て終了です。
6.仕上げなど・・。
これで組み立ては完了ですが、塗装などの仕上げが待っています。
仕上げは個々の趣味ですが、小生はこのスピーカーでは、「との粉」を水3、木工ボンド1くらいの割合で溶いて塗って目止めをし、軽く400番のサンドペーパーでサンディングし、その上から2液性のウレタンエナメル塗装(ブラック)をしています。
塗料はいつも「おもしろ塗装工房」さんで買っています。
http://www.tosou-ya.comをご覧ください。
2液性のウレタン塗装は、ピアノの様なフィニッシュになります。
完成すると強くて綺麗です。
(塗装工程も色々ありまして相当長くなりますので、今回はこのくらいで・・)
7.完成
いよいよ・・・試聴です。
実際は塗装の前に仮にスピーカーをつないで音出しをしてみたのですが、まずボーカルが良くて、ビックリしました。
全般に音は抜けが良く、スピード感も相当良いものでした。
8cmとは思えない低音の豊かさに、持ち前の高音の抜け。
凄い性能にニコニコ笑いが出てしまう・・・そう言う感じなのでした。
エージングもしていないのに、のっけから凄く良い音で驚きました。
FOSTEXさんの新世代のユニットなのだなあ・・と思いました。
凄いです。
これは、スーパースワンに負けていませんでした。
いや、掛ける曲によっては、上回っていたかもしれない・・くらいでした。
このスピーカーは、軽くて小さいので、結構その後、色々と楽しい事をやりました。
某会社、社長様のオフィスで他流試合もやりました。
相手は先方様の会議室に設置されている名機J○×の、30cmウーファーの3ウェイ。
音質の優劣は、好みの問題もありますので、置くといたしまして、
しかし、それでも社長様、大変驚いておられました。
これがわずか直径8cmのスピーカーからの低音か?!・・・と。
このD-99はその後、あるお友達に大変気に入られ、オレンジ色の台と共に、横浜方面に嫁いでいきました。
かなり気に入ってくださいまして、大事にされているようです。
このオレンジ色の台は相当苦労して作っています。
柱の部分の中に乾燥させた砂を充填しています。
砂の乾燥は、屋外で古い中華鍋に砂を入れ、キャンプ用のコンロの上で砂を炒るのです。
かなり大量の砂を必要としますから、鍋で砂を炒って、新聞紙の上で冷まし、を何回も繰り返しやるのです。
これは相当、根気が要りますが、重量もあって良い台になります。
D-99は、確かに「超ハイCP」の素晴らしいスピーカーでした。
次回は新ユニット用のD-99ESRです。
これは自分の書いた図面ですから、皆さんに公開出来ます。
※このバックロードホーン形式のスピーカーは、好き嫌いがはっきり出るスピーカーのようで、全くダメで、嫌いと言う方もいらっしゃると聴いております。
耳が良くて、周波数が分かるようなタイプの方にとっては、低音の特定周波数のピークとディップ(特性の凸凹です)が耐え難くて聴いていられない・・・とか、中・高音が雑で・ラフで、うるさくて聞けた物ではない・・・という方もいらっしゃるようです。
有名なスーパースワンでさえも、お作りになってすぐ後、聞けた物ではないので、捨てた・・と言う方もいらっしゃるそうですので、この自作スピーカーについての内容は、あくまで小生の感覚・自分の好みでございまして、客観的な比較や性能の説明とは申せませんので、その点、一ユーザーまたは小生が譲った友人の方の主観といたしまして、悪しからず、お許し頂ければと思います・・・。