「契約書と書いて、根競べと読む」
「契約」に多少とも意識を持つようになったのは、30歳くらいの時からでしたでしょうか。
特に意識が強くなったキッカケは、米国企業との契約の時でした。
大変ビックリしたのです。
何に驚いたかと申しますと、海外の企業の方と(通訳の人を通じて)ミーティングで話したのですが、その話の内容が殆ど反映されていない契約書が後日送られてきたからなのです。
海外との契約では、どうやらそう言う、
「とりあえず自分だけが有利な条件を言ってみる」
と言うのが・・・スタンダード・・・のようでした。
相手方は、その条件が嫌なら「カウンター」と言う形で代案を出すのが通例のようでした。
契約の内容は、その両者の書類交換をスタートラインにして、延々と検討(交渉)していくという「根競べ式」のやり方が多かったのです。
「契約書のドラフト(ラフな下書きの意味でしょうか)を送ります」とは言うのですが、この「ドラフト」という表現・・が曲者だとも思いました。
ただの「下書き」だから・・許されるでしょ・・って言う感じに聞こえますが、下書きといっても、話していない事・聞いていない事とかを、平然と書かれると、『ひどいなぁ』と感じたものです。
下書きだろうと何だろうと、それまでの折角の交渉経緯をきちんと反映して欲しい・・と思うのは小生だけでしょうか・・・。
見方によってはこの「ドラフト」・「プロポーザルと言う言い方もあるようですが・・」結構失礼で無駄になる話・・・だとも思います。
経営トップの方たちが会談で話した内容とは、異なる契約書が来るようでは、ミーティングでの「直接交渉」の意味が薄くなってしまいます。
契約内容の骨子でさえ、こういう有様なので、交渉で話題にならなかった詳細な事などは、完全に先方有利の内容で「ドラフト」が来たりします・・・。フーッ。
それから、このことを違う言い方をすれば、これから取引をしようと言う相手に、自分だけが有利な条件をぶつけてみて、相手先がもし気が付かなければ、それで有利に「うまいこと」やろうなんて・・・と言うことになりますから、これは「姑息」と言うか、「ずるい」と言うか・・・になるのではないでしょうか。
そう言う姿勢の企業と思われても良いのか?と思ったものです。
海外は「ビジネス常識が違うんだろうなあ」と思ってはみたものの、釈然としないことが多かった・・と言う記憶があります。
これは単純に考えて、「変」だと、今でも多少思っています。
会談では「これで良いです。分かりました。」と言って、契約書では「これでは嫌ですよ。」と書いてある。だったら会談の時も「嫌です」・・・と言って欲しいじゃないですかー・・。
こう言う妙なことが「グローバル・スタンダード」なのでしょうかねー・・。
小生はこう言う時は、少々芝居がかって、怒り気味なくらいで、「なんだこれ!!」と言って突っ返しても良いのではないか?と思い始めています。
仕事の上で契約・・と言うのはなかなか避けて通れませんが、日本企業同士の間でも、相手先様の法務部門で色々な問題に直面します。
これは意外によくある風景だと思うのですが、日本の企業の抱える問題点の縮図になっている??(大げさですね・・・)ようにも感じますので、ちょっと書いてみたくなりました。
サラリーマンの頃から「おぼろげ」に感じてはいたのですが、最近だんだん構図のようなものが分かってきたように思います。
相手先様のトップの方と交渉して、こちら側が土下座のようにお願いし、ありがたい結論を得ても、後から先方の法務部門の方が出てらして、結局、まるでゼロから交渉をやり直す感じを味わうことがあります・・・。
こう言う事には今まで何度か遭遇しています。
しかし、この状態は、気持ちとしてはかなり辛いので、すんなり消化できずにいました。
お会いする前から先方に言うべきかどうか、何度も悩み、やっと決心し、頭を下げて、本当にお願いしてみて、やっとの事で承諾いただいた内容や意味が、書類の段階で瞬時にどっかへ行ってしまうのです・・。
背景にあるのは保身でしょうか?変化を好まない前例重視でしょうか?いずれにしても・・・。
『おーい、僕のお願いしたことー!帰って来いよー!』です。
まるで演歌の世界ですね・・・。
これは冷静な表現で言えば、それまでの精一杯の笑顔や、平身低頭や、お願い、お約束や、議論の経緯がある意味、無視されてしまうので、交渉が「やり直し」「振り出し」に戻ったのに近い状態だと思います。
冷静さを欠く、ベタベタな商売的表現で言えば「トップの方とやっと握ったのに、現場では白紙だってさ・・」と言う状態です。
これは何とかならないものでしょうか・・・。
企業の法務の方は経営トップの方たちの知的ボディーガード役も自認されているのだと思います。
それには良い面も沢山あると思います。
しかし、しかしです。
社内だけを見て、会社の論理で約束を白紙にしたい・・・のも分かるのですが、それは社会的には無茶をし過ぎではないか、と思うのです。
少々信用に関わります。
口頭でも約束は約束だし、経営トップの方の意思・意図も反映された話ですし、普通はこう言う条件では契約しない・・・は分かりますが、お話した事実は消えませんから・・・。
ましてやトップの方だって、普通では無い条件だが今回は助けてやろう・・とか、特段のご配慮をしてくださった場合は、社内を何度でも気の済むまで確認していただいて結構なので、「これを踏まえて・・・」欲しいと思います。
何とかトップの方に信用していただいたことを、現場の方に値踏みされ、リスクヘッジを掛けられるのは非常に厳しいです。
リスクヘッジも常識の範囲内・・でしょうか。
同じお願い事を、相手先様の役職階層の方々ごとに、何度もご説明する弱者の立場は、冷や汗ダラダラで、辛いものです。
そもそもトップの方が特別な条件を飲んでくれた背景には、こいつらも将来、「少々役に立ちそうだ」とか「この後、別件でウチのために一汗かけよ・・・」と言うような「読み」や「意志」がおありになる筈ですしね・・・。
また、こう言うケースでなくても、よく直面するのが相手先様の契約書の雛形・・・。
言ってきている法務の担当の方には悪意は無いと思うのですが、その案件でのお互いの役割などが相当違っても、『当社にあるのはこの契約書の雛形なのでこれをベースに・・』と言われますと、『ああ、またか・・』と思います。
実際、知人の会社のケースでは、受託開発の話ではなく、彼らが主体的に『ものづくり』をするケースでも、『ウチには下請けさん用の契約書の雛形しかないので、これでお願いします』と得意先様に言われ「シビレちゃった」事もあると聞きます。
社内の伝達・・・・これは肝ですね。
この話、実は自社の戒めに・・と考えています。
零細企業の弊社には独立した法務部門などなく、危惧することも無いのですが、法務の部署でも作るようなことがあったら、是非やろうと思っていますのは、
<契約作成の申送り書>のようなものです。
担当の事業部門の人が、商談で約束したり、話し合ったりした条件を、きちんと契約書に反映するように、専門の人に申し送る・・・こう言うフォーマットが必要だなあと思っています。
この商談自体が問題ならば、商談をした人間が『先日の条件は、やはりまずかったので、もう一度話し合いたい』と、きちんと謝って再会談をすべきで、法務部門の方が代行する内容ではないと思っているのです。
小生も大企業勤務の経験がありますので、過去に自分が何気なく出した「雛形」がどんなに失礼だったか!!などを省みますと、恥ずかしく、本当に顔から火が出ます。
深く反省し、真面目に、「明日に活かしたい」と思っています。