開発は素直な企画に勝る物なし・・・などと思ったりします。浅薄な経験の中ですが、昔、玩具の開発に従事していた頃、そうか、企画はユーザーさんの視点に対して素直にやらないと・・・と感じた事があり、大きく反省した事があるのです。成功のようでいて、実は本当は「失敗」の思い出です。
当時、小生が所属していた開発セクションは事業部の開発部門ではなく、開発本部(売上計画の無い)の開発部門でした。そこでは、お客さんとのディスカッションの中から開発のヒントを掴みそれを商品化するといった考え方を実践しており、学生のアルバイトで組織も構成しておりました。
小生はマーケティング的な発想で開発をするチーム・・・を担当しており、このヒアリング対象の学生アルバイト組織の運営も担当していました。
この活動はシンプルで、時給を払って大学生に週に一回、平日の夕方に会社の会議室に集まってもらい、色々話を聞いて開発のヒントにしたり、企画中のアイデアを評価してもらったりしていたのです。お茶菓子などを出して、楽しく語ってもらっていました・・・。
その頃、大人、特に学生向けの玩具と言うテーマがあり、仮説を立てては色々聞いていました。
暫くして、彼らの意見から、どうやら会話の演出グッズ的なものが欲しい・・・それなら買っても良い・・・というニュアンスを掴みました。当時の流行語などを抽出したり、根気良く、少しずつ商品像に迫りました。
今考えますと「えー?」なんですが、当時の彼らの会話は擬音に満ちていました。・・・たしかその辺のジェネレーションギャップ・・・言葉のジェネレーションギャップ・・・が企画の着眼、端緒だったように思います・・・。
『バギューン』
『ドッカーン』
『ブー』
『ダダダダ』
まるで、彼らの会話は漫画の擬音の表現付き・・・。当時30歳くらいだった某?開発マンは結構面食らって、ついて行けないくらいの会話でした。
この話から、『擬音を商品に!!』と言うようなコンセプトが出てきました。
玩具屋の企画的には「新しいチャレンジ」に思えました。音を商品にする・・・。日常の会話の演出音・・・の商品化。
「面白いかも」・・・と思いました。大学生曰く、「小さめの、ただの黒い箱みたいな物で、ボタンが沢山あって色んな使える音がすれば良い」
チームは素直に、黒くて手のひらに軽く入るサイズで、角が丸い箱の様で、スピーカーの音を出す細かい穴があり、小さなボタンが10個くらい並んだ物を絵にしました。
「擬音が売れる時代です」
「彼らが欲しています」
「衝動買いですので、1980円以内です」
「音はピンポーンやブーやダダダダッ」
「音はお金(売り上げ)に変わります」
しかし、一方で玩具業界の常識にも縛られていました。
『そんな物が商品になるわけが無いだろう。』
『玩具と言うのは音と光と動きだ!』
『音だけを売る黒い箱なんて玩具じゃない!!』
この黒い小さな箱は社内的なコンセンサスが取れませんでした。
チームは色々頑張って商品にしようと試みましたが、自分たちも本当の自信がなかったのだと思います。結果的に、外形を腕型(袖から先)にし、その手首に動きを付け、音は「ピンポーン」と「ブー」の二つの(クイズ番組ノリの)音に絞り・・・商品化しました。
それなりに売れて、償却もし、利益も貢献しましたが、これがちょっと苦い思い出になりました。
ピンポンハンド
この商品の発売から半年以上後でしたでしょうか?「黒い箱で色々な音のするもの」が他社から(香港製品だったと思います)発売されたのです。
アイデアを思いついたら、世の中に最低3人くらいは同じ事を考えている人がいる・・・とは言いますが、まさにショックな商品で、もともとのコンセプトを形にしたもの「ズバリ」でした。
やられた!と思いましたが、既に遅し・・・です。累計販売数は、当方が確か20万個。黒い音の箱は200万個?とも言われる販売でした。(形を変えて、だんだん小型化され、最後は小さなキーホルダーにまでなりました)
敗北感いっぱいでした。
これは自分の教訓になりました。
今考えれば、「音と光と動き」を「おもちゃ」に求めるのは子供であって、このアイテムではターゲットが普段商売した事の無い大人・大学生だったのですから、なおの事、自分たちの観念、常識、ノウハウが通用しない相手だったのだと思います
自分たちの専門で、得意な分野だからこそ、知らぬ間に『こう言うものだ』という押し付けをしてしまうんですね。
この件は本当に勉強になり、とても悔しい思い出になっています。成功している体験がある分野ほど、自信がありますから、「危険」です。
自分に自信があると、サインを見落とすと言いますか、聞く耳がなくなってしまうのだと思いました。そう言う意味では、開発はいつも「実績ゼロ」の感覚で謙虚に取り組まないとならない難しい仕事ですね。・・・言うのは簡単ですが、難しいところです。
人様の心理を考え、欲しい物を探り、お届けする・・・。ここには「I」や「Me」は無い。自分が主語になったら危険なんですね。
俺が考えた・・・ではなく。お客様のこう言う声に・・・とか、こう言う傾向を考えて・・・とか、いつもお客様が主語になっていれば、かなり良いのだろうなあ・・・と考えております。